1. オフショア開発のリスクとは
日本の企業間でのビジネスは、あいまいな表現であってもある程度は相手に推察してもらうことが可能ですが、海外ではそれは通用しません。
日本では常識であると思われていることも、国民性や文化の違いにより、それは常識でなく受け入れられないこともしばしばあります。オフショア開発にはどのようなリスクがあるのか解説していきます。
1-1. コミュニケーションの咀嚼が生じやすい
現地スタッフとのコミュニケーションは、日本語・現地語・英語などを用いてコミュニケーションをとりますが、どちらか一方あるいは双方が、母国語ではない言語を使用するため解釈に食い違いが生じ、意図した通りに進まないといったリスクがでてきます。
また国民性による違いも大きく影響します。例えば、できないにも関わらずできると答えてしまう、「~~するだろう」と思っていても、自分の業務範囲外のことはやらないといったことはよくあることです。
日本では無責任に感じるような行動でも、文化の違いによるもので相手方に悪気があるわけではないのです。それを責めるような態度をとってしまっては、日本人とは仕事がやりづらいと思われてしまいかねません。
国民性や文化の違いに加えて言葉の壁があるため、コミュニケーションに問題を抱えてしまうリスクがあります。
1-2. クオリティにばらつきが生じやすい
オフショア開発では、成果物のクオリティが低いまま納品されることが問題に上げられます。日本クオリティのレベルは何においても高く評価され誇れる部分ですが、海外品質の基準にはやはり乖離があります。
なにか問題が起こっても品質チェックや報告をせず、「指示されていないから」という理由でそれを問題視するような考えを持っていないことも多いです。
また自分の成果物には責任感を持つけれど、チームとしての意識が低いといった風潮の国もあります。
そのため不具合のあるまま納品するという事例も珍しくありません。指示されたことだけしかやらない、チームとしての意識の薄さなどが、低品質なクオリティにつながっていると考えられます。日本では当たり前であることも、その国の常識は異なるため注意すべき点です。
また国によっては、そもそも技術面においてまだまだ発展途上であり、優秀なエンジニアが少ないところもあります。バグや不具合により修正時間に膨大な時間を要する事態につながるリスクも考えられます。
1-3. コストオーバー・納期遅延する可能性がある
日本企業においてコスト管理と納期管理は必須項目のひとつです。順守して当たり前であり、万が一コストオーバーや納期遅延といった問題が起こる場合には、判明した段階で対策や報告を行うことが一般的です。そのような対応を怠った場合、プロジェクトの停止にもつながりかねません。
しかしオフショア開発先の国の中には、コストオーバーや納期遅延をとくに問題視しない、日本的な常識で考えるとルーズな管理体制の国もあります。納期が間に合わなくても定時での退社が当たり前で、納品を遅らせてしまうことを悪いとは感じていない国が多いのです。
なぜ遅延したのかという日本側の問いに対し、忙しかったからと当たり前のように返答するというやりとりはよくあるケースです。
1-4. 情報漏洩のリスクがある
日本の企業間では情報管理やコンプライアンスに関する意識が非常に高まっており、危機管理に対する教育を行っている企業がほとんどです。
しかしオフショア開発先の国の多くは、情報管理やコンプライアンスについての教育がほとんどされておらず、その意識の薄さが問題となるケースがあります。
故意に担当者が情報を持ち出すケースもあれば、セキュリティの甘さによる事故、意識の薄さから悪気なくSNSなどで自ら情報漏洩を図ってしまうケースもあります。独自の開発サービスであるはずが、情報漏洩によって多大な損失につながりかねません。
そのようなリスク対策が必要な一方で、セキュリティ対策にかかる費用、情報管理やコンプライアンスについての教育導入にもかなりのコストがかかるため、情報漏洩の防止に関しては今後の課題であると言えるでしょう。
オルグローラボでは社員と機密保持契約を締結、コンプライアンスについての教育、セキュリティ対策ソフトの導入をするなどの対策を講じています。
1-5. 世界情勢による影響を受けやすい
オフショア開発は、日本側と現地国との綿密なやりとりが発生します。人件費が安価、インフラも整っているなど好条件がそろっていても、日本とその国の関係性は非常に重要な要素となります。
過去には反日デモが起こるほど、歴史的な因縁を抱え反日感情の強い国もあります。旅行先や芸能関係で若い世代には受け入れられている国であっても、外交上問題を抱えている国には注意が必要です。
また外交関係だけでなく、オフショア開発先の社会情勢も重要です。例えば最近では日本企業も多く進出しているミャンマーで軍事クーデターが起こりました。
国の社会情勢の悪化により、インフラの遮断や経済活動にも影響することが考えられます。このような問題があれば、現地企業が開発をうまく進められない懸念もでてきます。
2. オフショア開発のリスクを回避するには?
一方的に日本の常識を押し付けるばかりでは決してよい関係性は築けず、逆に大きなトラブルにつながりかねません。国民性やその国の文化を理解して、一つひとつのリスクに対策を行うことが大切です。
またその国の社会情勢や外交問題にもリスクがあります。オフショア開発におけるリスク回避のポイントを解説していきます。
2-1. ブリッジSEに日本人を起用
「コミュニケーションの齟齬」への対策は、ブリッジSEを日本人にすることでリスク回避ができます。ブリッジSEは、日本企業の要望を理解して、現地スタッフへの指示や、進捗・納期管理、テスト・品質チェックなどを行うのが仕事です。日本企業と現地スタッフとの橋渡し的な役割があるため、キーパーソンであると言えます。
ブリッジSEに現地スタッフを採用すると人件費の面ではメリットがありますが、コミュニケーションの問題が否めません。スムーズにプロジェクトを遂行できるよう、現地スタッフであっても日本語の能力が高く、日本文化にも理解がある人が適しているでしょう。
2-2. 具体的な内容を仕様書に指示
「クオリティのばらつき」への対策は、仕様書に具体的な内容を記載することがリスク回避につながります。日本人同士であれば言わなくてもわかるだろうということでも、国が違えば言わないと伝わらないということもあります。
依頼内容は前もって仕様書に、具体的に明確な内容を記載しておくことでリスクを大幅に回避できます。
また内容が伝わりやすいかという点も重要です。仕様書に指示内容を書けば問題ないということではなく、理解しやすい内容でないと齟齬が発生してしまう可能性があります。理解しやすい仕様書は作業効率を高めますので、内容の工夫も必要です。
そして納品のタイミングでバグや不具合に気づくということがないように、こまめなチェックやテストを実施します。バグや不具合を早めに発見することにより、修正を比較的簡単に済ませやすくなります。
2-3. コスト・納期には余裕をもたせる
「コストオーバー・納期遅延の可能性」への対策は、あらかじめ想定しておき余裕をもったコスト・納期設定をすることです。トラブルが起こった際の報告や連絡は、時差が大きなオフショア開発先であれば両者の確認に時間を要してしまいます。
日本感覚の期日ではなく、トラブルが起こった際の対処期間や時差を考慮し余裕をもった納期を設定することが望ましいでしょう。
また現地スタッフには、前倒しの納期日程を伝えることも有効的です。しかしあまりにギリギリのスケジュールを伝えると、「無理な要求をされている」「間に合わないからスピード重視でやろう」といったマイナスに働くケースもでてくるため、モチベーションやパフォーマンスが下がらないバランスが大切です。
定期的にこまめな進捗管理を行うこと、遅れることを想定して常に前倒しの意識を備えておくこと、この2つのポイントがコストオーバーや納期遅延を回避する対策と言えます。
2-4. セキュリティに関する管理の徹底
「情報漏洩のリスク」への対策は、コストのかかる大きな課題と言えます。とくに入退室管理などのハード面にかかる費用は、コスト削減が可能なオフショア開発においては、本末転倒な部分もあります。
そのため、現地スタッフに対しての教育や管理を行うことが最も重要と言えます。日本企業でも導入している教育システムを参考にした定期的な教育と、システムへのログイン記録の管理などを率先して実施すれば、オフショア開発先である現地スタッフの意識も高まります。
情報漏洩に関しては罰則を設け、機密保持の同意書へサインさせることも徹底しましょう。現地スタッフの入れ替わりが激しいのも、セキュリティ面だけでなく教育面においても避けるべき状況です。
2-5. 日本との外交関係を見極め依頼先の国を選ぶ
「世界情勢による影響を受けやすい」への対策は、その国の社会情勢と日本との外交関係をしっかり把握し情報収集することがポイントです。
これまでに紹介した対策は企業努力でできますが、外交関係や内政についての問題は企業にはコントロールできません。親日国であるか、安定した政治が行われているかを見極め選ぶことが大事になります。
3. オフショア開発のリスク軽減のポイント
オフショア開発のリスク回避のポイントは、上記で紹介した5つ以外にも心がけておくべきソフト面でのポイントがあります。
3-1. 積極的なコミュニケーションが重要
日本企業と現地スタッフとの密なコミュニケーションを欠かしてはいけません。人間であればミスは誰でも起こすものです。ミスを起こさない仕組み作りも大事ですが、それ以上に、ミスや問題に気づける定期的なチェックや相談をしやすいコミュニケーションはより重要です。
ミスや問題を報告できない・しないといった体制の悪さは、コミュニケーション不足が大きな要因です。
またコミュニケーションを積極的にとることで信頼関係も生まれ、仕事へのモチベーションも上がり相乗効果が期待できます。仕様書だけで業務を依頼するだけはなく、双方が気持ちよく仕事ができるように、仕事のパートナーであるという意識を高く持っておくことが大切です。
3-2. 国民性の違いを理解する
オフショア開発を進める上で欠かせないのは、国民性を理解しその国の文化を尊重することです。日本にとっては当たり前で常識的なことでも、国によってその常識は異なります。
どちらがよくてどちらが間違っているということではありません。例えば「納期に間に合わなさそうだから今日はここまで進めておこう」と考えるのは日本ならごく普通のことですが、「定時になったら帰る」というのが当たり前の国がほとんどです。
世界からみると日本の風土の方がある意味独特なのです。それを無理に日本スタイルを押し付けようとすると双方がストレスを抱えプロジェクトが円滑に進みません。
4. まとめ
オフショア開発は、想定した納期よりも遅延しコストがかさむことや、成果物のクオリティが低いといった失敗事例はよくあります。
また企業ではコントロールできない国の内政は、悪化するとプロジェクトをストップする事態にもつながる可能性があります。よくあるリスクを勘案し対策しておくことが、オフショア開発を成功させる鍵となります。
「オルグローラボ」では、ベトナムでのオフショア開発事業を行っております。ベトナムはインフラ整備も進み治安のよい国です。
さらにはITスキルの高い大学も多く優秀な人材が育っており、親日国であるため日本企業に関心を抱いてくれています。ベトナムでのオフショア開発は歴史もあるため好環境と言えるでしょう。