1. オフショア開発とは
オフショア開発とは、業務システムやソフトウェア、ウェブサービスの開発を海外の専門業者に委託することを指しています。オフショア開発に注目が集まっている背景としては、日本におけるIT人材不足、人手不足に伴い人件費が高騰しているからです。
政府主導で国全体の業務デジタル化を推進していますが、それを担えるIT技術者が不足しており、人件費は年々高くなっています。そこで目を向けられたのが海外での開発です。
例えば中国やインドでは、日本よりも安い価格で技術の高いIT人材を確保できるため、開発業務を海外でおこなう企業が増えています。近年では東南アジアやアフリカでもオフショア開発ができる環境が整いつつあります。
2. インドオフショア開発の基本情報
国民性 | 日本語能力 | 経済状況 | エンジニアの技術力 | エンジニアの人月単価 | エンジニアの平均年収 |
---|---|---|---|---|---|
社交的 | 話者は少ない | 世界平均を上回る成長 | 高水準 | 約30万円 | 約500万円 |
2-1. 国民性
インドの国民性は、人と人との距離が近く話好き、社交的な性格をした人が多い国です。初対面の人とでも結婚や家族のことなどプライベートな話をするのに抵抗がありません。
しかし、人の話を聞くのは得意ではなく、首を左右に振ってうなずく動作をしていても、内容を理解していないまま受け流してしまうケースもあります。
日常でのやりとりでなら大きな問題になることはありませんが、仕事になると、伝えた際には理解したと頷いて仕事に向かっていったのに、期限が近づいてきた頃に進捗を伺ってみると全く違った仕事をしていたということも多々あります。
また、インド人はお金の話もよくします。給料についても隠すことなく話しますし、お金儲けにも悪い印象はありません。むしろ、お金持ちになれるように、親から子へ「将来は医者かプログラマーになりなさい」と強く勧められることもあります。
ルーズさのある性格だからこそ、込み入った話も気軽にできてしまうと言えるかもしれません。
2-2. 日本語能力
インド人の日本語能力はそれほど高くありません。インドで仕事をしている人は欧米志向が強く、エンジニアとしての仕事もヨーロッパやアメリカからの受注が中心です。
そのため英語に長けている人は多くいますが、日本語を話せるエンジニアとなると人材はかなり限られてしまいます。インドで日本語教育が本格化し始めたのは2018年頃からで、まだ期間が浅いため日本語を話すエンジニアの数も多くありません。
2018年以降は日本への入国ビザ取得のための要件が緩和され、インドで日本語教育機関を設立するなど、人材教育の環境が構築されつつありますので、将来的には日本語話者も増えていくでしょう。
ですが、現状では開発を委託する際は英語でのコミュニケーションになるか、ブリッジSEや日本人担当窓口を通すことになります。
2-3. 経済状況
インドの2021年度GDP成長率は8.7%を記録しており、全世界のGDP成長率5.8%を大きく上回る数値となっています。GDP総額は約250兆5,000億円で、新型コロナウイルスの影響を受ける前の2019年145兆1,500億円をも上回っています。
また、2022年度の第二四半期は前年比13.5%のプラス成長を遂げています。新型コロナウイルスに対する規制緩和にあわせて消費が盛り返したことによる急伸とみられており、今後の成長は緩やかになることが予想されています。
それでも世界平均よりも高い水準で成長率は推移すると目されており、国としては底堅く成長が続いていくことでしょう。
2-4. エンジニアの技術力
インドのエンジニアは技術力の高さが魅力です。幼少の頃から高度な数学教育が実施されているため、工学系の分野において、世界的に見ても技術力の高さは高水準となっています。
欧米の大手IT企業のCEOの多くをインド人技術者が務めていますし、日本ではソフトバンクでインド人副社長が年間100億円を超える報酬を得ていることが話題になりました。
インドではエンジニアが人生を変える職業として人気が高く、意欲的な人材が揃っていることも魅力の一つです。意欲的な分より良い条件で働けるなら短期間で転職してしまうため、企業による人材獲得競争が激しくなっています。
日本に比べると開発に要する人件費を抑えることができていますが、インド人エンジニアの人件費は年々高くなっています。
2-5. エンジニアの人月単価
インドのエンジニアの人月単価は約30万円です。中国でもエンジニアの人月単価は約30万円で、近年新たなオフショア開発先として注目されているベトナムやインドネシアは約24万円、フィリピンやミャンマーであれば20万円を切るケースも多々あります。
オフショア開発先としては、インドは他国と比べて割高な傾向があります。
人月単価が高い理由は、インド人エンジニアの技術力の高さが世界的に知られているためです。それでも日本人よりは安価に発注することができるため、IT人材の不足に悩んでいる企業や品質を変えずにコストダウンを試みたい企業にとって、インドのIT人材は魅力的にうつるはずです。
2-6. エンジニアの平均年収
インドのエンジニアの平均年収は約500万円前後です。日本のエンジニアの平均年収が約600万円前後であるため、将来的には逆転することも起こり得るかもしれません。
ただし、インドではエンジニアの中でも大きな格差があり、システム管理者などは年収約40万円、ソフトウェアのエンジニアは年収約120万円で、全体の中央値としては150万円ほどになります。
それでも格差の激しいインドではエンジニアになれば高収入を得られるため、意欲的な人材が多くいます。今後もインド経済の成長は続くことが予想されますので、エンジニアの平均年収も国の成長と合わせて上昇していくでしょう。
3. インドオフショア開発の特徴
3-1. インド国内でIT系職業が人気
インドではIT系の職業が大変な人気となっているため、エンジニアの世界は非常に競争が激しい業界でもあります。その理由としては、エンジニアとして働くことが、インドに根付いているカースト制度から脱却する方法であるからです。
憲法上は廃止されているカースト制度ですが、カースト制度とは生まれながらにして職業が決まってしまう身分制度です。比較的新しい産業であるIT分野では、カースト制度の影響が少なく、技術さえ磨けば身分制度の足かせから抜け出せるとあって、貪欲で必死に学ぶ人が多くいます。
もちろん平均年収の何十倍も稼げるようになるのは上位数%の選ばれた人材に限られますが、家族ごと人生を変えられる可能性があるため、多くの人が目指す職業となっています。
3-2. 公用語が英語
インドの第二言語は英語であるため、コミュニケーションを取りやすいのが特徴です。インド国内には複数の言語が公用語として存在しているため、ビジネスをする際は共通言語である英語を使用するのが一般的となっています。裏を返せば、英語を話せないとビジネスとして成り立たないとも言えます。
また、インドのオフショア開発の委託元は欧米が中心であるため、英語をネイティブレベルで使えるIT人材が豊富です。ローカル言語に言い換えをする必要性がないため、意思が伝わりやすい点はインドでのオフショア開発のメリットです。
4. インドオフショア開発のメリット
4-1. 技術力の高いエンジニアが多い
インドの企業にオフショア開発を委託するメリットは、インド人エンジニアの技術力の高さが世界レベルにあることです。インドといえば高度な数学教育をイメージする方もいらっしゃるかもしれませんが、工科系の大学は日本の工科大学の数よりも多いとされています。
中でもインド工科大学は世界三大難関大学とも言われており、卒業生には世界のIT企業から新卒でも1,000万円以上のオファーがあります。
インド工科大学に入れる学生は全学生の1%であるため特異な例ではありますが、インドでエンジニアになることはそれだけで人生の成功に近づけるため、熾烈な競争が繰り広げられることで、エンジニアの技術力向上を後押ししています。
4-2. 意欲的な人材が多い
エンジニアは人生を変えられる職業とあって、意欲的な人材が多いのもインドでのオフショア開発のメリットです。特に「ジュガール」と呼ばれる問題解決に向けた考え方が、インド人エンジニアの成長を支えていると考えられています。
ジュガールはその場しのぎのような問題解決方法ではありますが、考えるよりも行動し、トライアンドエラーを繰り返すことが解決の糸口になるとされています。確かに、頭で考えいつまでも進展がないまま時間が過ぎていくよりは、行動をしながら改善を繰り返した方が問題解決に近づけることでしょう。
まずは手を動かし行動しながら考えることが、失敗を恐れない挑戦的なインド人のバイタリティを創り出しています。
4-3. 開発費用が抑えられる
インドのエンジニアのトップ1%は非常に高額な待遇を獲得していますが、平均的なエンジニアであれば、日本人と変わらない技術力を持っている人材を2分の1や3分の1以下のコストで確保することができます。
システム開発やサービス開発費用の多くが人件費にかかるコストになりますから、インドへのオフショア開発を取り入れることで、品質を保ったまま開発費用を抑えることができます。
インドは世界平均の成長を超える経済発展をしている国ではありますが、現状では日本だけで開発するよりもコスト面でのメリットを享受することができます。
4-4. オフショア開発の実績が豊富
インドでは1950年代から国内のIT教育に力を入れており、欧米を中心にオフショア開発の委託先として実力をつけてきました。近年注目され始めた他のアジアのオフショア開発地域やアフリカの国よりも、開発における実績の違いは明らかです。
特に大規模な開発を進める際は、コストが安いとされる東南アジアの国々よりも実質的にコストを抑えられることでしょう。他の国で80人必要な作業に対して、インドのエンジニアであれば40人や60人で作業を完遂することができる技術を持っているからです。
オフショア開発といっても国ごとに適した案件は異なりますので、プロジェクトに必要な技術力と適切なコストを見極める必要があります。
5. インドオフショア開発のデメリット
5-1. 遅延トラブルの発生の可能性
時間についてのトラブルは日本企業が海外でビジネスをする際によく発生しますが、インドでも同様に時間のことで頭を抱えることになるでしょう。
理由としては、インド人は日本人に比べて時間に対する意識が低いことが挙げられます。上位数%に入るような優秀な人材でさえ、ビジネスの間だけは時間にキッチリしていても、仕事を離れるとルーズになる傾向があります。
待ち合わせをしてもその場に行くことが重要であって時間が考慮されないような生活が習慣化しているため、仕事でもその特徴が表れます。インド人同士ではお互いが寛容なため気になりませんが、日本人からすると非常識であるため、ストレスに感じてしまいます。
5-2. 日本との時差が大きい
インドと日本の時差は3時間30分で、日本の方が進んでいます。オフショア開発として知名度のある中国やベトナムでの時差は1時間〜2時間程度なので、3時間30分あるインドでは現地とのコミュニケーションが取りづらいデメリットがあります。
例えば納期を日本とインドどちらの国に合わせるかをしっかりと伝えておかなければ、日本の就業時間が過ぎたあとに納品されてしまう事態も起こり得ます。その上、時間にルーズな習慣も考慮する必要がありますので、日本のペースで仕事を進める場合、十分に時間に余裕を持って業務を委託することが大切です。
5-3. 国民性の違いがある
インドへ業務を委託する場合、国民性の違いにも驚いてしまう場面があるかもしれません。日本では組織での活動を重んじるため、慎重な決定プロセスを踏みますが、インド人は合理的な進め方を好みます。
何かビジネスで検討事項がある場合、日本ではリスクの洗い出しを行ってから検討に入りますが、インドではまず行動してみて上手くいかなかったら改善をすれば良いというスタンスです。検討をしたい日本と早く手をつけたいインドで考え方の対立が生まれ、お互いがストレスを感じてしまうことが発生するかもしれません。
5-4. 人件費が他東南アジアに比べ高い
技術力が高く意欲的な人材が多いことが魅力のインドのエンジニアですが、実績があり欧米からのニーズも多いことから、他の東南アジアに比べて人件費が高く設定されている点はデメリットになります。
小規模のプロジェクトであれば、インドでなくともベトナムやインドネシアに開発を委託した方が、人材も見つけやすくコストを抑えることができるはずです。
ただ大規模なプロジェクトになれば、経験のある人材を集めるにはインドの方が適しており、人材のいない国に委託するよりも返って安く済ませられることがあります。その国の特徴をしっかりと把握して、業務ごとに最適な委託先を検討する必要があります。
6. インドオフショア開発が向いている企業は?
6-1. IT人材不足に悩む企業
国内でIT人材の確保が困難で、人手不足に悩んでいる場合はインドのオフショア開発を検討するのがおすすめです。インドでは毎年150万人近い学生が工学専攻の学校を卒業しますが、国内では就職先がないため、就職率は50%と非常に低い数値となっています。
そのため海外に目を向ける学生も多く、オファーがあれば多くの応募を集めることができるでしょう。お金が欲しい、勝ち上がりたいという強い意思のある就職希望者が多いため、意欲的な人材を獲得できるはずです。
6-2. スキル基準を保ちつつコスト削減したい企業
高い技術力を期待できるインドのオフショア開発は、スキルの基準を保ちつつコストだけを削減したい企業にも適しています。前項でお伝えしている通り、高い技術を持っていても就職先がなくて困っているエンジニアは多くいます。
日本で平均的なエンジニアが求められるスキルであれば、インドなら半分のコストでもオファーを受けてくれる可能性は十分あります。日本で未経験の人を雇用するような金額で、中堅クラスの技術者を確保できるとなれば十分試してみる価値はあるでしょう。
6-3. IT技術力を向上させたい企業
高度なIT技術を求める企業ほど、インドのオフショア開発に目を向けることをおすすめします。先述のとおり、インドのエンジニアのスキルは世界中からニーズがあり、多くの巨大企業がオファーを提示しています。
高度な技術を持った人材は日本国内でお金を出しても確保できないケースも多々ありますから、国内にいなければ海外の市場で人材を確保するしかありません。技術力を求めて海外を目指すなら、まずは実績のあるインドが優先度の高い選択肢になることでしょう。
7. インドオフショア開発会社の選び方
7-1. コストを抑えたい場合は現地のIT企業がおすすめ
インドでオフショア開発を行う場合、まずはどのような会社に業務を委託するのかを検討する必要があります。開発にかかるコストを最小限に抑えたい場合は、現地のIT企業にオファーを出すことになります。
現地のIT企業に委託をする場合、窓口は当然インド人になるため、英語でのコミュニケーションが基本になります。日本人がいないというのはコストを削減するためには大きなポイントになります。
日本の企業との業務実績がある場合、日本語を話せるブリッジSEがいるかもしれませんが、どの程度話せるかは事前に確認しておいたほうがよいでしょう。日本人が考える「できる」とインド人が考える「できる」の認識には違いがあるため、スキルが未知数な場合、英語でのやりとりを前提として進めるのが無難です。
7-2. 日本語でのやり取りが必要な場合は日系企業がおすすめ
自社に英語スキルを持った人材がいない、もしくは英語力に不安がある場合は、日系の企業にコンタクトを取ることをおすすめします。実際に開発を行う人材はインド人エンジニアですが、やりとりは日本人の担当者と日本語で行えるため、大きな安心を得られるはずです。
日系企業には大きく2種類あり、日本の企業が現地で開発企業を運営しているケース、現地在住の日本人が現地で開発会社を運営しているケースです。
前者の場合は日本にも支社があるためやりとりは日本の支社で行われることが多く安心感がありますが、少し割高になります。後者の場合は日本に支社がないためテレビ会議などのやりとりが中心になりますが、その分費用が抑えられます。
7-3. 受託開発
インドでオフショア開発を進める際は、どのような形態で業務を行うかもチェックするようにしましょう。オフショア開発での業務形態は2種類あり、受託開発とラボ型開発に分けられます。
受託開発は、開発するプロジェクトごとに人材や時間を確保して業務に取り組む方法です。仕様書を元に決められた人数が決められた期間内で作業を行うため、予算の部分でも計画が立てやすい側面があります。
ただし、途中で仕様書の変更をすることが難しく、どうしても変更を加えなければならない場合、割増しの追加料金が発生するなどデメリットもあります。
7-4. ラボ型開発
プロジェクト毎にリソースを確保する受託開発に対して、ラボ型開発は一定期間の間、依頼者専用のチームを編成して業務に臨む業務形態です。一定期間エンジニアを確保できるため、プロジェクトの途中で仕様変更が発生しても、臨機応変に対応できるというメリットがあります。
また、ある程度の期間、共にプロジェクトを進めていくため、お互いの仕事の流れを理解することができ、続けることで仕事の効率化ができるようになります。その後の追加開発や修正の発注もしやすくなることでしょう。
ただし、ラボ型開発の場合は案件の有無に関わらず費用が発生するため、定期的に仕事を発注しなければ無駄なコストが掛かってしまうため注意が必要です。発注の数が減少したり途切れたりすれば、受託開発よりも割高になる恐れがあります。
8. インドオフショア開発会社のおすすめ3選
8-1. 株式会社ハーミッツ
株式会社ハーミッツはモバイルアプリの開発を強みにしており、さらに、インドを拠点にしているラジャスリシステムズとミナスキュールテクノロジーズを子会社に持ち、日本の企業へオフショア開発のサポートを行っています。
クライアントの意図と現場の認識に重大なミスコミュニケーションが発生しないよう、日本品質の開発環境を提供しています。2017年よりモバイルアプリの開発実績を積み上げてきましたが、2019年にAIアプリ開発の事業を立ち上げ、2021年からはセールスフォースの開発も開始しています。
クライアントのさまざまなニーズに応えるための体制が整っています。
8-2. フィデル・テクノロジーズ株式会社
フィデル・テクノロジーズ株式会社は、インドでのオフショア開発だけでなく、保守や人材紹介など手広くビジネスを展開しています。日本企業のソフトウェアのローカライズ化、海外ソフトウェアの日本語化支援も行っており、さまざまなビジネスシーンでのサポートが可能です。
8-3. ユニカイハツ・ソフトウェア・プライベート・リミテッド
ユニカハイツは、プリセールスやプロトタイプの開発から本番システムの設計・開発だけでなく、ローンチ後の保守までをワンストップでサポートできるサービス提供を強みとしている会社です。日本とインドの架け橋となるべく1996年に設立され、20年の実績があるためお互いの商習慣を理解し尽くしています。
9. まとめ
インドのオフショア開発は、他国に比べて割高な費用がかかりますが、世界から注目されるほどの技術力があります。意欲があり英語でのコミュニケーションもスムーズにおこなえるため、ある程度の規模感のプロジェクトを進める際は、インド人エンジニアのサポートが力になってくれることでしょう。
「オルグローラボ」では、優秀な人材を確保しつつコストダウンを図れるベトナムでのオフショア開発をサポートしています。ベトナムは距離が近く日本人旅行者も多いことから、親近感があり日本企業のオフショア開発実績も増えています。低価格で高品質な業務依頼におすすめです。